代謝調節型受容体
代謝調節型受容体は、Gタンパク共役型受容体といわれ、7回膜貫通型の構造をとる。Gタンパクはα、β、γの3つのサブユニットからなる三量体で、αサブユニットの働きにより、Gαs、Gαi、Gαqの3種類に分けられる。β、γサブユニットはイオンチャネルとして働く。
Gi受容体にリガンドが結合すると、αサブユニットの働きでアデニル酸シクラーゼ(AC)が活性化され、cAMPの合成が進みcAMP濃度が上昇する。これをきっかけにリン酸化酵素であるプロテインキナーゼA(PKA)が活性化され、標的タンパクのリン酸化や転写調節因子の活性化、細胞膜カルシウムチャネルの活性化などが起きる。 Gqの反応はGiと逆で、リガンド結合によりACが抑制され、cAMP濃度が下がり抑制的に働く。
Gqは活性化に働く受容体だが、Giとは機序が異なる。リガンドが結合すると、αqサブユニットの働きでホスホリパーゼCが活性化され、細胞膜のイノシトールリン脂質代謝が進む。ホスファチジルイノシトール4,5ビスリン酸(PIP2)からジアシルグリセロール(DAG)、ホスホイノシトール3リン酸(IP3)が合成され、IP3は小胞体からカルシウムイオンを放出させ、開口分泌やカルモジュリン依存性キナーゼを活性化させる。DAGはポロテインキナーゼCを活性化させ、タンパク質のリン酸化を引き起こす。
副交感神経節後線維や、交感神経節後線維にあるアセチルコリンのムスカリン型受容体ではGqの系でカリウムイオンチャネルの開閉が調節されている。
神経筋接合部における刺激の伝達
神経終末に活動電位が伝わると、電位依存性カルシウムチャネルが開き、カルシウムイオンが細胞内に流入する。これがきっかけとなって小胞体からアセチルコリンが放出され、エキソサイトーシスによってアセチルコリンが放出される。
アセチルコリンは筋細胞膜の受容体に結合すると、ナトリウムイオンの流入が起こり、終板電位(-10~15mV)が発生する。この電位変化が電位依存性ナトリウムチャネルの開口を引き起こし、活動電位が発生して筋収縮が起こる。
アセチルコリンは終盤にあるアセチルコリンエステラ―ゼにより、コリンと酢酸に分解される。その後、コリンは輸送体(コリントランスポーター)によりシナプス終末に取り込まれて、アセチルCoAとともにアセチルコリンに再合成される。
重症筋無力症では自己抗原によりアセチルコリン受容体が破壊され、全身の筋力低下などの症状が出る。
大まかにまとめると以下の流れのようになる
活動電位の伝導
↓
神経終末へのカルシウムイオン流入
↓
↓
筋細胞膜(終板)の受容体にAchが結合し、終盤電位が発生
↓
電位依存性ナトリウムチャネルが開口し、活動電位が発生
↓
筋収縮
神経伝達
・刺激の伝達…原則としてカルシウムイオンに依存する。シナプス前ニューロンに活動電位が伝わると、膜電位が脱分極する。これをきっかけに電位依存性カルシウムチャネルが開き、カルシウムイオンがシナプス前細胞に流入する。これをきっかけにシナプス小胞内の神経伝達物質がシナプス間隙に放出される。※1
・興奮性の神経伝達物質…代表例としてグルタミン酸があげられる。シナプス後膜側の受容体にはAMPA型、NMDA型の2種類がある。
AMPA型受容体…グルタミン酸が結合する事でカリウムイオンを細胞外へ出し、ナトリウムイオンを取り込む。このため平衡電位は0mVである。カルシウムイオンは透過しない。
NMDA型受容体…グリシンの結合がないとグルタミン酸とは結合できず、静止膜電位ではマグネシウムイオンが受容体の入り口をふさいでいて陽イオンを通さない。脱分極して開口すると、カルシウムイオンを含む陽イオンを透過する。
AMPA型は比較的早くて強い応答を、NMDA型は長く弱い応答を示す。
GABAの受容体…GABAa、GABAc(いずれもイオン透過型)などで、クロライドイオンを膜内に透過することで膜電位を深くする(IPSPを与える)
※1…脳科学辞典(シナプス前終末)https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%B7%E3%83%8A%E3%83%97%E3%82%B9%E5%89%8D%E7%B5%82%E6%9C%AB
胎児の血液循環
・胎児ヘモグロビン
妊娠時は母体の心拍出量が40%ほど増大する。胎児の持つ胎児ヘモグロビン(Hbf)は、成人ヘモグロビン(Hba)よりも酸素親和性が高く、母体からの酸素の受け取りに都合がよい。
・卵円孔
胎児の血液は、胎盤からの動脈血を心臓へ運ぶ臍静脈から、肝臓の静脈管を通り、下大静脈と合流して右心房へと入る。胎児期には右心房と左心房の間に卵円孔という穴が空いており、右心房に流れた血液は左心房へと送られ、動脈血と静脈血が混ざった血液が、左心室→全身へと流れていく。
生後、胎盤からの循環路が閉じると新生児は窒息状態となり、呼吸中枢が刺激されて大きな呼吸運動が起きる。このときに胸腔内圧が陰圧となり、肺動脈圧が低下し、肺循環に血液が流入する。このため、左心房圧が上昇して1次、2次中隔が密着して卵円孔が閉鎖する。閉鎖後の卵円孔は卵円窩と呼ばれる。
・動脈管
また、上大静脈からの静脈血は、右心房→右心室→肺動脈の経路を通るが、胎児では肺動脈幹に大動脈弓との連絡通路(動脈管)ができている、肺動脈圧は大動脈圧よりも高く、静脈血が大動脈弓に送られる。このように、肺呼吸を行わない胎児では、肺循環がほとんどおこっていない。動脈管は生後数分で閉鎖し、動脈管策として残存する。
頭頚部に血液を送る腕頭動脈、総頚動脈、鎖骨下動脈においては酸素の豊富な動脈血が大動脈から供給されているが、下半身に送られる血液には、動脈管策から送られる酸素濃度の低い静脈血が混じっている。胎児の下半身が上半身に比べて未発達なのは、このような胎児期の血流が要因とされている。
ネルンストの式と静止膜電位
・ネルンストの式
水溶液中でイオンの濃度勾配が存在すれば、拡散によって電位差が生じ、電位差は濃度勾配に逆らってイオンを移動させようとする。二つの力が釣り合うところで平衡に達し、正味のイオンの移動はなくなる。ネルンストの式は、この濃度差と釣り合う電位差Eを表す式である。
E=RT/F log[細胞外イオン濃度]/[細胞内イオン濃度]
(R=気体定数8.315 J・mol-1・K、T=絶対温度、F=ファラデー定数)
が成立する
RT/Fは37℃であれば61。Log→lnの変換は2.303×log10X=lnXを使う。
もともとは細胞内外の電気的ポテンシャルのつり合いを求める式で
細胞内の電気的ポテンシャル=細胞外の電気的ポテンシャルとなる下記の式から導出される。
zF×Ei+RT・ln[Ci]=zF×Eo+RT・ln[Co]
・静止膜電位
静止膜電位の形成に寄与しているのは主にK+である。細胞では膜表面にNa+/K+ATPaseが発現しており、1分子のATPを加水分解して、3分子のNa+を細胞外へ排出し、2分子のK+を細胞内へ取り込んでいる。この作用により、細胞内ではK+が高濃度に存在している(K+濃度は150mEq/l、細胞外は5mEq/l)。
細胞膜にはNa+/K+ATPaseのほかに、K+リークチャネルが発現しており、濃度勾配に従ってK+を細胞外に排出している。細胞内にあったK+が細胞内から細胞外に移動することによって、静止膜電位が形成される。ネルンストの式から求められる、神経細胞におけるカリウムの一般的な平衡電位は―90mVである。
複数の種類のイオンが出入りしている膜電位は、各イオンの透過性を考慮したゴールドマンの式で表される。Na+、K+、Cl-の出入りを考慮している。
ゴールドマンの式では
E(平衡電位)=RT/F log (Pk[K+]o+PNa[Na+]o+Pcl[Cl-]i/ Pk[K+]i+PNa[Na+]i+Pcl[Cl-]o)
が成立する。
Pはそれぞれのイオンの膜透過性を意味し、静止状態ではK+:Na+:Cl-=1:0.04:0.45である。活動電位が生じている時には、K+:Na+:Cl-=1:20:0.23となり、ナトリウムイオンの透過性が上がる。静止状態の透過性で膜電位を求めると約-70mVとなる。
心音の聴取部位とⅠ音、Ⅱ音
・心音の聴取部位
大動脈領域…第2肋間胸骨右縁
―大動脈弁、大動脈の音を聞く
肺動脈領域…第2肋間胸骨左縁
―肺動脈弁、および肺動脈の音が最も強く聴取される
エルプの領域…第3肋間胸骨左縁
―大動脈及び、肺動脈起源の音を聴取する
僧帽弁領域…左第5肋間と鎖骨中点
―左室の直上にあり、心尖部が含まれる。僧帽弁、左室にかかわる音が強く聴取される。
三尖弁領域…第4肋間胸骨左縁
―三尖弁、および右室の音が最も強く聴取される領域
・心音のⅠ音とⅡ音
Ⅰ音
…房室弁(僧帽弁と三尖弁)の閉鎖音で、収縮期の初めにきこえる。
Ⅱ音
…ⅡA音が大動脈弁の閉鎖音で、ⅡP音が肺動脈弁の閉鎖音。いずれも収縮期の終わりにきこえる。ⅡP音は健康な人でもⅡAよりわずかに遅れることがある。
※ⅡP音はなぜ遅れるか?
① 外肋間筋、横隔膜の収縮
↓
② 胸腔が広がる
↓
③ PV=一定より、V(胸腔の容積)が拡大すると、圧力は小さくなる(胸腔内の陰圧が強まる)
↓
④ 静脈が広がり、静脈管流量が上昇
↓
⑤ 右室から肺動脈への血流が増える
↓
⑥ 肺動脈の駆出時間が延長する
↓
⑦ 肺動脈弁の開放時間が長くなる(閉鎖音が遅れる)
参考:
血圧の基礎
・動脈の働き
動脈は心収縮期に一気に血液を受け止め、拍動脈に変えて血液を組織、毛細血管に流している。これは大動脈の男性と抵抗血管の働きによる。動脈硬化では、これらの作用が失われるため、拍動が大きくなり、最高血圧が上がる。
・血圧の概要
収縮気圧=最高血圧
拡張気圧=最低血圧
脈圧=収縮気圧―拡張気圧
平均血圧(1心周期の血圧を平均したもの)=脈圧/3+最低血圧
正常値は以下の通り
大動脈系…拡張気圧60~85mmHg、収縮気圧100~130mmHg
肺動脈系…拡張気圧2~8mmHg、収縮気圧15~30mmHg
動脈系では細動脈の血圧降下が最も激しい。抵抗血管であり、大動脈など上流の血圧をあげ、毛細血管など下流の血圧を下げて血圧を調整している。
血圧は毛細血管に至るとほぼ0になり、これより先は静脈弁や筋ポンプ、呼吸ポンプの作用で心臓へ運ばれる。血液の約7割は静脈系(低圧系)に存在し、静脈は容量血管と呼ばれる。動脈は壁が厚く、弾性に富む。静脈は血管壁が薄く、伸展しやすい。
・臓器への血流
脳…15%
骨格筋…20%
腎臓…20%
消化器…30%
etc